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『BLOOD-C』~ファンタジー性の回帰~

BLOOD-C 1 【完全生産限定版】 [Blu-ray]

 

オススメ度★★★★★(5.0)

 

傑作。その一言に尽きる。ProductionI.G制作のアニメ作品。2011年に放送されたようですが、これはリアルタイムで楽しみたかったと忸怩たる想いを抱えながら鑑賞終了。少女、怪物、日本刀という三つのビジュアルコンセプトを基に作られた『BLOODシリーズ』の三作目。それにしてもまさかCLAMPと共同制作になるとは思いもよりませんでした。ヒロインである更衣小夜を演じるのは水樹奈々。アニメ歌手としてトップに君臨し続ける彼女、声優としては正直上手くないです。少なくともTV版はいつもの水樹奈々の演技で、無理な方は無理なんじゃないでしょうか。非常にクドいんですね。しかし劇場版を含む『BLOOD-C』は、そんな彼女にしか出せない哀愁を生み出すことに成功しています。水樹奈々の起用には膝を打たざるをえない。

 

感想なんですが、傑作傑作とは豪語しながらも、ネタバレを含まず魅力を伝えるのが困難なこの作品。なんとかネタバレを回避しつつ書いていきたいと思います。

 

 

PLOT

どこまでも青い空、そして町を取り囲み、澄んだ空気を提供してくれる森の樹々たち。絵に描いたような長閑な世界。

自身が愛してやまない世界に感謝の念を忘れず、些細な善行を欠かさずおこなう、愛想のカタマリのような善人である高校二年生の少女ーー更衣小夜。

彼女は、私立三荊(さんばら)学園に通い、気の置けない友人たちと平和な学生生活を送る一方、父親で、浮島神社の神主でもある更衣唯芳の命により、人知れず人間を襲い、捕食する<古きもの>と呼ばれる、強大な力を持つ異形を、それらを唯一殺傷せしめることのできる武器ーー<御神刀>を持ちて狩る、という務めを果たしていた。自分の愛する世界を守る。ただそれだけのために彼女は戦い、満ち足りた日常と非日常を送る生活。それは彼女にとって嘘偽りなく、満ち足りた大切なものだった。そう、<対価と引き換えに、なんでも願いを叶える『ミセ』>から、<彼>がやってくるまでは……。

 

 

Review

ネタバレなしだと、陳腐なプロットにしかならないですね。物語の核心上、陳腐であるということ自体がすでに伏線なのですが、このアニメ、何も知らない白紙状態で見ることがベストの楽しみ方。前置きでも触れ、重複しますが、水樹奈々が非常に良い味を出しています。『ハートキャッチプリキュア』でみせたような、彼女の持つ演技のクドさを前面に押し出すことによって、平和な町で健やかに育った善人の、かなり「浮いた」雰囲気を形成することに成功しています。

本来ならその嘘臭い演技がアニメのただでさえ高いフィクション性を更に高め、物語に没頭することを阻害し、この作品でもそういった効果を遺憾なく発揮しているのですが(なのでDVD一巻は低評価です)、その過剰な演技による嘘臭さが、アニメ中盤で「健気さ」となり、終盤では「せつなさ」へと転化していきます。その三段階の感情移入、その感動がこのアニメには詰まっている。これはすごい。

実在しながらも、どこかプラスティックの箱庭を思わせる作り物めいた街並みや、人の動き。ここには日本の「ファンタジー」や、本質的な意味での「ホラー」が失っていた力が宿っています。

もちろん、演出による感動(構成による感動はありますが、それを求める人は少数派でしょう)なんてものは皆無ですし、さまざまな作品との類似点も多々あり、SFでありがちな現実崩壊、メディア・パロディ要素、押井守的なモラトリアムの終焉、またはポストエヴァ的な物語でもあることは十分理解しています。しかし改めて見ると、それはとても良いものであったと、安全な箱庭から抜け出し、現実へと向かう姿勢はたとえどんなかたちであれ良いものであると、そう再確認できるような、そういう良質なアニメだと思っています。

 

明日にでも、劇場版についてのレビューを書く予定です。

それでは。

 


BLOOD C PV - YouTube

 

BLOOD-C (角川ホラー文庫)

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