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『パラケルススの娘』感想。

パラケルススの娘〈1〉 (MF文庫J)

 

五代ゆう先生によるダークファンタジー『パラケルススの娘』、今更ながら読了です。刊行されたのは2005年、なんと10年前の作品です。なんでぼくはこんな面白い作品を読まずにこの歳まで過ごしてしまったのか……と過去を嘆いていも仕方ありません。では感想を。

 

PLOT

跡部遼太郎は路頭に迷っていた。純粋な使命感から荒ぶる霊(ミタマ)の鎮めを担う退魔の一族・跡部家の跡取り息子でありながら、才覚に恵まれず親族たちから疎まれ、遂には現当主である祖母・跡部たか女から日本からイギリスへと実質的な追放処分を受けた無力な少年ーー。

唯一自分を慕う、かわいい妹を日本に残し、ひとりイギリスのロンドンへ旅立つが、到着して間もなく悪童に全財産と預け先の住所・紹介状を詰めたトランクを盗難される。頼る相手もなく、身を寄せる先もなく、異国の空の下で即日浮浪者となる無力な少年ーー。

茫然自失の彼の目の前に、一匹の異形の猿が現れる。背に生えた蝙蝠のような羽をはばたかせながら、失われたはずの紹介状を手にして。逡巡はあれどその異形を追いかけた先で、彼が出会ったのは、悪臭と惨劇、銀髪の美少女、そして、男装の麗しき魔術師だった……。

 

ーー時は、19世紀、1892年、英国の首都、ロンドン。

世界に冠たる大英帝国は、現在、繁栄の絶頂にある。インドや中国をはじめ、世界各地に拡がる植民地から自動的に集まる富と、世界に先駆け産業革命を実現させた技術力は、勝利の女神【ヴィクトリア】の名を持つ偉大な女王のもとで、栄光を謳歌する日々を人々に与えていた。大量生産と大量消費とが繰り広げる絢爛豪華な終わりのない輪舞は社会全体に広がり、富める者はますます富み、貧しき者はますます貧困の闇に沈む、混沌とした時代。

貴族たち、そして事業によって金を得た一部の中流市民にとって、この世は終わりのないパーティーそのもの。新しい退屈しのぎの娯楽には飛びつき、流行の服、流行の芸術、巷を賑わす強盗に、凄惨なる殺人、そして何よりも、幽霊。

 

いま、イギリスでは世はあげて【心霊主義(オカルティズム)】に夢中になっている。

 

この世界には形を持たぬ、だが愛と光に満ちた者たちが住まう世界があり、そこには同じく善意に満ちた霊たちがいて、迷える現世の人々を救済したいと心から願っている。人間の死後の魂と霊界ーー産業と新技術の発展、聖書の文献学的研究により、神の不在を暴かれ、心の拠り所を失った現在のロンドンにおいて、その実在を信仰する人間がすくなからず存在し、【心霊主義者】と自らを称している。

そして彼らが提唱する、霊や霊界の実在を証明することを主目的とした【交霊会】が各所で催される中、誰もが予期し得なかった事故・惨劇が発生し、異形の猿によって誘われた跡部遼太郎は、それに関連する怪事件に巻き込まれてゆく……。

 

稀代の魔術師がロンドンを舞台に織り成す、マジェスティックダークファンタジー、遂に開幕。

 

 

Review

すいません。梗概を書くのがうまくなりません。まさか1000文字越えるとは……途中で端折りましたが、それでも詰め込み過ぎてしまった。それはそうと、いいですね。ヴィクトリア朝の様式美というものは。ヴィクトリアとかオカルトとか、2005年においても使い古されたネタですが、それでも好きなものは好きなんや……。思わず舌触りを確かめたくなるような飴色のマホガニーのチェストと木机、パルプ的ロマンに満ちあふれた帆船の版画、深緑のビロードのカーテンに施された金色の房飾り、鏡のように丁寧に磨かれた銀器たち。まぁぶっちゃけかなり後ろ向きのラノベなんですが、最近、そういう作品ばかりを進んで消費していくスタイルに落ち着きました。停滞、ノスタルジー、醸成される悪意、つまりルサンチマンのそれです。

ストーリーそのものはわりと陳腐というかわざわざ取り上げるようなものではないので(失礼かな)、ごっそり無視しますが、やはり美しい物は良い。うっとり。

 

それでは。